「100分de名著平家物語」を読んだ感想とあらすじ

エッセイ

100分de名著平家物語は、能楽師の安田登さんが紹介する平家物語の概要と考え方、学ぶべき教訓がまとめられた優れた一冊です。
祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり、という一文を聞いた事のある方は、この本を読めば、
その背後に秘められた物語について考えるチャンスになるのではないか、と思います。

本のあらすじ


平家物語について、能楽師の著者が解説する本です。  

祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす。  

この出だしで有名な平家物語は、平家の栄華と滅亡を描いた物語であり、1100年代の源平の戦いで平家が敗れるまでを描いた物語です。  
琵琶法師がこの物語を語る時には、有名な出だしの部分だけで7分ほどかかります。
この部分だけでも、特異な語りの形式の面白さがありますし、独自の雰囲気を作りだしていていいのではないか、と思います。

 内容としては、源義経の鵯越の逸話や、屋島の合戦において那須与一が的を射る話、平敦盛の最後など、多数の見どころがあり、子供の頃学校の歴史の時間に習ったわずか一行の出来事の中に、このような内容が含まれていて、このような魅力やドラマがあったのか、と思いを巡らす事も出来るのではないか、と思います。  
そのように数々の逸話のある平家物語について、本書は分かりやすく解説してくれるので、私のような無知な初心者でも楽しむ事が出来ました。

本から学んだこと


平家物語の中にある色々な教訓を本書から学ぶ事が出来ます。
 例えば、橋合戦と呼ばれる戦いの場面では、川の橋が外されていたので先陣の騎馬武者たちが止まろうとした所、後陣に押し出されて川に落ちてしまう、という話があります。
天下の平家軍が、戦場での統率をとれずに、このような失態を演じてしまうような所には、当時の平家軍の実力が見え隠れしていたのではないか、と思いました。  
逆に、源氏側は、同じ橋合戦に置いて、但馬という武将が飛んできた矢を切り落とす場面があり、反対に兵の強さを表すような構図になっています。  
また、戦いについて、この本では、戦場では我身の事を忘れる重要性が説かれています。
これは、仏教の無我や空の概念に近く、柳生但馬守宗矩の兵法家伝書にある、心を捨てきって一向に我も知らずして適う所が道の至極なり、という言葉にも通じる所があり、そのような点でも、色々な事を学べる良書だと思いました。

本を読んで、今後参考にしたいこと・役立てたいこと


本書では、成仏の仕方について、死の前にこの世に思いを残すと浄土に行けない、と往生要集を例にして解説しています。
未練を残さないというのは、確かに大切だと思いますが、それを死後の世界にも当てはめて考える手法は優れていると思いましたし、参考にしたいと思いました。  

また、著者は、自分より才能のある人の事は理解できない。
普通の優れている人は、自分から見て理解可能な優れている人であり、自分のレベルを超えた実力者はその才能が分からない、と言います。  
確かに、アインシュタインの相対性理論の凄さは、普通の人には分からない部分があります。
あの公式を見ても、何が何なのか、私には分かりません。
しかし、その道のプロが見ればその凄さが分かるものであり、そこに決定的なレベルの違いがあります。
このように考えれば、自分の理解を超えた才能の存在を認める事ができますし、そのような点で面白いと思いました。

本の感想


平家の盛衰の様子が分かりやすく描かれていて、完成度の高い一冊だと思いました。
また、著者独自の価値観や考え方が紹介されているので、平家物語の内容の考察以外にも、優れた考え方を学べるという側面もあると思います。  

平家物語を単純に読んだだけでは分からない機微が、分かりやすく説明されているので、平家物語をどのように解釈したらいいのか、そこに何が暗示されているのか、という事を学びたい方にも、おすすめできる一冊だと思います。

本のイマイチだったところ


著者の解釈はとても優れていて、感心するところも多かったのですが、独断による解釈が行き過ぎていて私の見解とは異なる部分があり、個人的にはそこが相容れなかったです。
また、那須与一が扇の的を射るシーンが一行で片付けられていて、詳しく記述されていなかったので、その点が残念でした。
簡単に片づけられていた部分としては、那須与一の弓を射るシーン、頼朝の存在などがあり、紙面の制約上仕方なかったのかもしれませんが、そこは、もう少し詳しく知りたいところでもありました。  
しかし、それでも全体としての出来栄えは大変優れていて、卓越した解説が随所にあり、とても良い本だと思います。

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